“ネオ昭和”を掲げ、昭和カルチャーを現代に再構築する阪田マリン。その表現の源泉とは?





昔の歌謡曲をレコードで聴くことや、少しクセがあるけどお気に入りの古着に袖を通すこと。そしてときには、街角で見つけた懐かしい意匠に心をとめること。どれも日常におけるささやかな瞬間で、“自分の好き”を更新し続けてしまう感覚。人はなぜ、この感覚に夢中になるのだろう。誰かに認められるためでもなく、時代の潮流を汲みとるためでもない。ただもう一度、ときめくものに出会いたい。過去と今が交差する新しいかっこよさに触れたい。その衝動に導かれるように、人は音楽を聴き、服を選び、カルチャーを掘り起こす。今回は“ネオ昭和”をキーワードに独自の表現を発信し続ける、阪田マリンさんをインタビュー。彼女の昭和カルチャーへの愛情と、現代を生きる感性、その両面から立ち上がる感覚について話をうかがった。
一枚のレコードから受けた、細胞レベルの衝撃
「昭和」。1926年から1989年までの60年以上にわたり続いた日本史上最長の元号であり、同時に音楽やファッション、映画、アート、文学といったカルチャーにおいても、非常に多くのものを生み出した激動の時代。2025年には“昭和100周年”を銘打ったイベントが開催されるなど、昭和とそのカルチャーに未だ魅了され続けるひとは多く、インターネットやSNSの無い時代に生まれた古き良きカルチャーや文化は、今もなお新たな世代に発見や刺激をもたらしているようだ。阪田マリン氏も、その魅力に強く惹かれたひとり。ただし、レトロや懐古主義的な昭和カルチャー好きではなく、より深く、より熱量をもって昭和を愛している人物としてもさまざまなカルチャーシーンから注目を集めており、Xで22万人以上、インスタグラム11万人以上というフォロワーの数からも、その注目ぶりがうかがわれる。彼女が昭和に焦点を当てた、気になるそのきっかけ。それは一枚のレコードに起因するという。


「中学2年生のころに祖母の家でレコードプレーヤーに出会ったことがきっかけです。初めて触れたレコードミュージックは父が持っていたチェッカーズさんのレコードでした。針を落として、あの“プチプチ”っていう音に続いて音楽が流れ出した瞬間に『うわ、これだ!!』って(笑)。細胞レベルでピンときたというか、直感的な衝撃を受けたんです。その体験をきっかけに昭和の音楽やカルチャーへの興味が一気に広がっていって、そのままのモチベーションで今も突き詰めている感じです」
2000年生まれの阪田氏にとって、音楽といえばiPodが当たり前の世代。アナログレコードならではの音や、聴くための手間に対して新鮮さすら感じたといい、昭和時代の文化が単なる懐かしさではなく「新しい発見」として心に刺さったと振り返る。昭和は彼女にとって、新時代的な魅力を持つ新たなカルチャーとして刺さったようだ。
「そのことをキッカケに、中学高校と昭和やそのカルチャーに対する探究心はどんどん加速していって、当時のアイドルや映画、ファッションなどに強く惹かれていきました。特に山口百恵さんや中森明菜さんといったスターの方たちの芯のある生き方や表現力には、本当に影響を受けました。カワイイだけじゃなくて、かっこいいんですよね。今の時代のアイドルとはまた違った色気があって、楽曲にも何度だって聴きたくなる不思議な魅力があるんです」
当時、昭和歌謡のレコードを与えてくれた父親にお礼を伝えたところ、「そんなに好きなら僕が当時好きだった映画も観てみれば」と助言された阪田氏は、次に角川映画の世界へとどっぷりハマることに。映像、楽曲、俳優陣、当時のファッションやカルチャーなどがリアルに描かれた、メディアミックスの先駆けとして昭和を彩る名作の数かず。その魅力にハマるのも自然な流れだった。
「映画からは当時のファッションや喋り方、昭和の流行語まで、カルチャーそのものをリアルなかたちで知ることができて、本当に夢中になって漁るように観てきました。そして、昭和という時代を知れば知るほど、もっと深く知りたくなっていって。その熱はずっと変わらないまま、いまの自分の原動力にもなっています」
いまも「昭和に生きている」と錯覚したい
「大学時代も、昭和とそのカルチャーについて研究したり学んだりしていましたね。昭和のオールディーズを研究するサークルに入って当時の海外文化やオールディーズ、ロカビリーファッションなども学びましたし、情報をどんどん吸収して、同時に視野も広がった時期だと思います」
「『昭和に生きている』と錯覚したいんです」、そう語る阪田氏。「もう昭和には戻れないんだなって思うと、少し落ち込んでしまうので」、そう笑う彼女は今も昭和にいると思い続けるため、ときにはレトロな雰囲気が残る街を散策し、景観からインスピレーションを得ることもあると教えてくれた。


「地元の大阪は古い喫茶店や商店街なんかも多くて、今でも昭和の匂いが色濃く残る街です。だから、たまにする街歩きもすごく楽しみで。大阪だったら新世界の方とかが好きですね。趣のある街の風景が大好きですし、そこから受ける影響も大きい。どこを見ても昔ながらの活気があって、昭和のお店も残っていて、歩いていると本当に時代感覚がわからなくなる。私はその感覚がすごく楽しいんです。昭和はひとつの年号で区切られた時代という見方が一般的ですが、私にとっては今も続いていてほしいもの。続いていると錯覚しながら生きている大切なもの、という感覚です」
昭和カルチャーに没頭した体験をSNSで発信するなかで、阪田氏は単なる好きを超え、昭和と令和を融合させた新たなスタイルを確立することとなる。その名は「ネオ昭和」。昭和のカルチャーに敬意を表すかたちで、現代風に解釈·再構築されたその自由かつ独特なスタイルは、同世代をはじめとする幅広い層から支持。彼女の昭和への愛着は、次のフェーズである表現活動として花開くこととなる。
“ネオ昭和”という唯一無二のスタイル
阪田氏が提唱する「ネオ昭和」とは、昭和という時代を単なる懐古的な観点やレトロ趣味として消費するのではなく、現代に生きる感覚としてアップデートし、今も続く文化として再解釈する考え方のこと。昭和を終わった過去として捉えるのではなく、現在進行形の価値観として捉える目線は、現在の活動の骨子となっている。
「歌謡曲やアイドルカルチャー、映画、ファッション、喫茶店文化など、昭和的要素を深く理解したうえで、令和の感性やSNS、現代のライフスタイルと自然に融合させていく。それが『ネオ昭和』です。いわば美意識や人間関係、表現の熱量が凝縮された“生き方”そのものなんですね。例えば、昭和歌謡を現代の若者にも届く形で紹介したり、当時のファッションや言葉遣いをそのまま真似るのではなく、今の空気感に合わせて再構築することで、『昔は良かった』というノスタルジーではなく、『今だからこそ昭和が新しい』への昇華にもつながると思っています」


また、「ネオ昭和」には、その時代に感じられた人情味や不完全さ、過剰なほどの情熱を肯定する意味合いも含まれている。効率や合理性が重視される現代において、あえて遠回りで不器用な昭和的価値観を楽しむこと。それ自体が、現代に対するひとつのカウンターカルチャーとしてのおもしろさへとつながっている。
「レコードもそうですし、雑誌を読みあさって昔のファッションを知ることもそう。少し不便だからこそ感じられる余白というか、不完全なところにこそおもしろさがあると思いますし、心にも残るんだと思います。実は私、阪田マリンとしてはじめてのアルバムをリリースしたんですが、それもアナログレコードだけでの展開です(笑)。パッケージングとしてのレコードとしての魅力や、アナログならではの音質で楽しんでもらいたいという思いもそうですが、やはり楽曲を聴くまでのレコード針を落とす行為や、ジャケットを部屋に飾ってもらったり、といった所作においても、昭和な向き合い方で楽しんでもらいたい。まさに“ネオ昭和”な向き合い方ができる作品として、楽しんでもらえたらうれしいですね」
「ネオ昭和」は昭和を保存する試みではなく、昭和を未来へ持ち運ぶためのコンセプトワークともいえる。だからこそ、阪田氏の取り組みや価値観は、世代を超えて共感を集め、新たなカルチャーとして広がり続けているのだろう。
コーヒーがくれるのは、自分に酔いしれられる時間
純喫茶巡りや昭和のカフェカルチャーにも造詣が深い阪田氏。ヤンキーカルチャーをはじめ、昭和の若者文化と切ってもきれない縁を持つこのコーヒーという存在が、なぜこれほどまでに人々を魅了し続けるのかについてもうかがった。
「いくつか理由はあると思うんですが、味や香りだけじゃなくて、“時間”をつくり出してくれる点にあるんじゃないでしょうか。例えば、誰かとふたりで話すときも、コーヒーを飲みながらだと不思議と気持ちが落ち着くし、肩の力を抜いて向き合えたりもする。ひとりで過ごす時間でも同じで、コーヒーがそこにあるだけで、心に小さな余白が生まれますよね。朝飲めば『今日も頑張ろう!』って、背中を押してくれる存在にもなるし、人によって役割が変わる多面性もコーヒーの魅力のひとつだと思いますね。その点では、昭和という時代の捉え方ともよく似ていると思います。昭和という時代に人それぞれ違う意味を持ち、感じ方が異なるからこそ、奥行きが生まれるんだと思います」


コーヒーと向き合う時間、多くはいわゆるリラックスタイムやチルアウトと呼ばれるものに相当するかもしれないが、阪田氏はまた違った目線で捉えている。その時間にあえて言葉を当てるならば? そう質問すると、次の答えが返ってきた。
「『自分に酔いしれられる時間』だと思います。楽しかったことも、幸せだったことも、ときにはいやだったことさえも振り返ることができる。そんなふうに、コーヒーカップを手にした瞬間、ほんの一瞬でも自分だけと向き合う状態がつくれる気がするんです。いわば心の余白を与えてくれる存在が、コーヒーだったり喫茶店だったりするのかもしれません。日常のなかでは感情が追いつかないほどいろんな出来事が重なることもあるし、素晴らしいことが続いた後に嫌なことが起きると、どうしても直近の感情に引っ張られてしまって、前の幸せを思い返せなくなることもあったりする。だからこそ、私は一日の終わりにほんの5分や10分でもいいから、その日を振り返る時間がほしい。その時間に寄り添ってくれるのが、コーヒーなんです」
ちなみに阪田氏、コーヒー豆そのものに強いこだわりはないとしつつも、大阪·梅田にある「マヅラ喫茶」のコーヒーは特別だと教えてくれた。昭和のビジネスマンたちからも愛されてきた味と、趣のある飾らない空間は、まさに当時の空気をそのまま閉じ込めたような存在でもある。店内で使われている、昭和に流行したアデリアレトロのグラスで飲むアイスコーヒーもまた、視覚から楽しませてくれるという。

「喫茶店ではコーヒー以外のメニューも欠かせません。私の定番は、“レスカ(レモンスカッシュ)”です(笑)。クリームソーダや硬めでしっかりした昔ながらのプリン、缶詰のフルーツが乗ったケーキなんかもいいですね。どれも今の時代には逆に新鮮で、魅力を感じます」
喫茶文化に限らず、ジュークボックスや旧車など、昭和にはまだまだ掘り下げたい世界が広がっていると話す阪田氏。今後の展望について、コーヒーカップを傾けつつ次のように語ってくれた。
「私の昭和好きが仕事としてかたちになる場面も増えてきましたが、その情熱が薄れることはありません。掘るほどにハマっていくのが昭和のカルチャーのおもしろさですし、むしろ知れば知るほど、好きは深まっていく。楽曲制作はもちろんですし、SNSでの発信や、フィルム映画のような映像作品などにも挑戦してみたいと考えています。平成に生まれて令和に生きる私ですが、やっぱり心は昭和なんですよね。これからもその想いを全開で抱えながら、昭和という文化を今に届けていきます」
阪田マリン/Marin Sakata
インフルエンサー/アーティスト
関西在住。2000年生まれ。“ネオ昭和”をキーワードに、昭和のファッションや音楽、ライフスタイルを現代的に再構築したカルチャーを発信し注目を集めている。SNSを中心に幅広い世代から支持を得ており、昭和歌謡やレトロ文化を独自の感性で表現。ネオ昭和歌謡アーティストとしての活動や、メディア出演、イベント登壇など活躍の場は多岐にわたる。単なる懐古趣味にとどまらず、昭和文化を「今を生きる表現」として提示する姿勢が評価されている。2026年4月には、自身として初のアルバム『なみだ色のハイウェイ(GIZA Studio)』を、アナログLPレコード限定でリリース。